gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 あの頃ペニー・レインと

日本人は、この手のタイトルにやられてしまう。原題「almost famous(ほとんど有名)」のままだったら、まず観たいとは思わない。なにか淋しげな、はかなげな、ビートルズがいた時代の青春・・・の匂いが漂ってくる。村上春樹の匂いに似ている。なんだかよく分からないけれど、淋しげ。そういう言葉に私たちはめっぽう弱い。

というわけで、この映画を観た。ビートルズの頃よりは10年くらい後の1973年が舞台になっていた。既にロックは衰退期に入った、とは映画の中の評論家のセリフ。それが芸術からビジネスへと堕落したのかどうかはわからない。少なくとも自分が10代を過ごした70年代から80年代にかけては、私はロックを必要としていなかったからだ。好きな曲はあっても、それを必要と感じたことは一度もない。

ロックを、酒を、煙草を、もちろん、ドラッグを必要としたことなんてない。だから、のめり込む人の心がわからない。痛みもわからない。しかし、それを傍で見ていて、淋しい、はかない、という思いだけは湧いてくる。

この映画は、15歳の少年がジャーナリストとしてロックバンドのツアーに同行する話だが、例えば、「ボーイズ・ドント・クライ」のように、ならず者の中に入っていったひ弱な者が、最初は歓迎されるが、暴力を受け、最後には殺されてしまう、くらいの危険もありえただろう。

この映画には、最初から主人公を危険にさらさない、という一線が引かれている。観る者は、安心していればよいのだ。その生ぬるさは、この映画の軽さにつながっていると同時に、ロックという音楽そのものの軽さにつながっている。

1973年。既にロックは衰退期に入っていた。おそらく、そうなのだろう。ロックの破壊力は、すでに失われていたのだろう。

残ったものは、この邦題のように、「なんだかよく分からないけど、淋しげ」なナルシスティックな何かだけなのだろうか。