デンマークの北端は海に消えていく。
岬と言えば、切り立った崖を想像するが、グレーネンの岬は、砂浜である。砂浜に、左から寄せる波と、右から寄せる波が、同時に迫ってきて、とうとう陸がなくなる。
私は夕暮れ時に歩いたため、だんだんと周囲が暗くなっていく効果もあいまって、なんだか足元が頼りなげで、このまま海に引き込まれそうな不安を感じた。
それは、満月の夜の引き潮の時間に、海に向かって遠く広がる砂浜をどんどん先へと歩くときの気持ちに似ている。自分は、今、罠にかけられようとしているのではないか。
波はすぐ足元でピチャピチャ音を立てている。やさしいふりをして、突然、水かさを増して、私を海の底へ沈めてしまおうとするのではないか。
恐れつつ、しかし、海に引っ張られるがままに足を進めたいという欲望とも闘いつつ、拠り所のない命が波と共鳴してゆらゆら揺らぐ。
揺さぶられたい、と思うなら、ここへ行くのもよい。