gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

夜と霧 6

強制収容所から解放されることをひたすら願い続けて、その願いをようやくかなえられた人びとは、みな幸せな人生を送ったのだろう、と考えていた。しかし、解放後も、心の平和を取り戻すには、大変な困難が待ち受けていたらしい。

「とくに、未成熟な人間が、あいかわらず権力や暴力といった枠組みにとらわれた心的態度を見せることがしばしば観察された。そういう人びとは、今や解放された者として、今度は自分が力と自由を意のままに、とことんためらいもなく行使していいのだと履き違えるのだ。こうした幼稚な人間にとっては、旧来の枠組の符合が変わっただけであって、マイナスがプラスになっただけ、つまり、権力、暴力、恣意、不正の客体だった彼らが、それらの主体になっただけなのだ。」

虐待される側から解放された途端に、虐待する側へまわる人間。そうすることによってしか、自分がこうむった損害を帳消しにする方法はないと考えてしまう人間の愚かさを嗤えるだろうか。

「精神的な抑圧から急に解放された人間を脅かすこの心の変形とならんで、人格を損ない、傷つけ、ゆがめるおそれのある深刻な体験があとふたつある。自由を得てもとの暮らしにもどった人間の不満と失意だ。」

強制収容所の人間を精神的にしっかりさせるためには、人生が自分を待っている、だれかが自分を待っていると、つねに思い出させることが重要だった。ところがどうだ。人によっては、自分を待つ者はもうひとりもいないことを思い知らなければならなかったのだ・・・・・。」

願いが叶えられる、ということは、戦いの終わりを意味する。戦いの終わりは、また新しい戦いの始まりであるほかはない。

人間は現実に向き合い、戦っている間だけ、人間でいられるのだから・・・・・。