gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

靴下の穴を繕う

もう20年近くも前に読んだ本で、坂本龍一が知り合いのアメリカ人ミュージシャンが、靴下の穴を自分で繕っている、という話を聞いて、その人が豊かな時間の中に生きていることに感動した、というようなことを言っていて、深い共感を覚えた。

その言葉は、ずっと自分の記憶の中に生きていて、「そのような時間の中に生きたい」と思い続けてきた。「靴下の穴を自分で繕うようになれば、自分はもう大丈夫だ」みたいな、ちょっと変な思い込みであるが、かといって、的を外しているとも思えなかった。

それでも、それを実行するようになったのは、つい3年前くらいである。それまでずっと多忙だったわけではない。たぶん私は、貧しい時間の中にいたのだろう。

そうやって、今は古い靴下を何年も履き続けている。豊かな時間を手に入れることができたのかどうか、はわからない。

しかし、かけがえのない時間とは、こんなにもすぐに手に届く位置にあるのだ、ということだけは、染み入るようにわかった。