こなし仕事、という言葉がある。ギリギリでなんとかやっつける仕事のことを言う。ふつう、レベルの低い、という意味も付いてくる。
バガボンドを描く井上雄彦の仕事ぶりがテレビで紹介されていた。そして、彼の仕事も、ある意味、「こなし仕事」であることが分かった。締め切り前日にまだアイディアも固まらず、締め切り当日に徹夜仕事をして間に合わせる、というギリギリでなんとかやっつけている。原稿の絵に満足できないこともある、という。
彼はもがき苦しむ。時間に追われ、地団太を踏みながら、自分自身に向き合い続ける。その姿は修行僧のようにも見える。
「こなし仕事」にもレベルの高い仕事がある。彼の仕事がそれを証明している。レベルの低い仕事との違いは、「こなす」ハードルをどの高さに設定するか、だけの違いである。
クリエイティブな仕事は、締め切りなしでは成り立たないことが多いだろう。私自身、何も決まっていない段階でクライアントに電話をし、「そろそろ提案が固まってきましたので、○日にお持ちしようと思います」と言って締め切りを決めていただくことが多い。そして、前日の晩にアイディアが固まって徹夜で提案を仕上げる、ということも多い。追い詰められ、もがき苦しむ中で、何かが絞り出されることを信じつつ。
同じような仕事の仕方をする人間がいることに、勇気付けられる。