gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

デンマークの犬

デンマークを歩いて旅行中、ある集落を通ったときのこと。赤い首輪をつけた犬が寄ってきて、そのまま私についてきた。

うす茶色の雑種で、あどけない顔をした子犬だった。動物と一緒に旅行することにあこがれていた私は、彼との出会いを喜んだ。彼はその集落を過ぎてもまだついてきた。

畑の中の一本道を大通りに向かっていた。車が来ると、私は左へ避けるが、犬は道の真ん中をのんきに歩き続ける。あわてて、首輪をつかまえて左へ引き寄せる。そんなことを何度か繰り返しているうちに、集落はどんどん遠ざかっていった。彼はいっこうに引き返す気配を見せない。

私は、この犬は家に帰れるのだろうか、とだんだん心配になってきた。次に反対方向の車が来たとき、私は車を止めて、犬を乗せていってもらおう、と考えた。彼を道端に引き寄せて、ありったけの笑顔をつくって車に大きく手を振った。車を運転していたおじさんは助手席のおばさんとともに人のよさそうな笑顔をこちらへ向けて、二人で手を振りながら通り過ぎていった。・・・いかん。外国人旅行者が車に手を振って挨拶しているとしか思ってくれないのである。

フー。ため息をついて立ち上がり、仕方なく歩き続けた。この犬はどこまでも私についてこようとしている。大通りが近づいていた。大通りへ出てしまえば、もう犬は自分の家に帰ることはできないだろう。そう思った。

大通りにぶつかるT字路の角に一軒だけ民家があった。私は、どかどかとその家の敷地に入り、玄関の近くにいた主人らしき人に英語でまくし立てた。(このような場合に限り、私の英語は流暢になる)「この犬はあの集落から私についてきた。どうかあの集落へ彼を返してやってください。ほな、よろしく」みたいな感じで、きょとんとした顔のおじさんに子犬の首輪をつかませて、足早にそこを離れた。

あの犬は無事に家へ帰れただろうか。