gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

ついてきた小犬

陽向に「冒険シリーズ」と題して、毎晩寝る前に、かつての一人旅の話をしている。

小学校一年生にもわかる話に限っているが、いつも大笑いしてくれる。

そもそも孫に「おじいちゃんは、若い頃にね…」と話せることが、旅の一つの目的だった。

相手は息子だが、小さな願いがひとつ叶ったようで、うれしい。

ただ、今晩は笑わなかった。

デンマークを150キロ歩いたときに、途中でついてきた小犬の話をしたのだ。

・・・・・

小さな村を通ったときに、赤い首輪を付けたかわいい犬がなついてきて、ぼくについてきた。

最初は愉しく一緒に歩いていたが、いつまでもついてくるうちに村を過ぎてしまった。

小犬が無事に帰れるか、心配になってきたが、小犬は戻ろうとしない。

まだずっと遠くまで歩く予定だったから、ぼくは歩き続けなくてはならない。

村はだんだん遠ざかっていく。

なんとかして、この小犬を家に帰さねばならない。

せまい田舎道を村へ向かう対向車が来ると、小犬が引かれないように脇へどけて首に手を回し、もう一方の手で、家まで乗せて行ってもらおうと思い切り手を振った。

何台同じことをやっても、結果は同じで、気のいい旅行者が手を振っていると思われて、みな運転席から満面の笑顔で手を振り返してきて、通り過ぎて行った。

このままでは小道から、国道へ出てしまう。

国道にぶつかるT字路に一軒の家があった。ぼくは心を決めて、家の敷地へ入っていき、ベルを鳴らした。

そして、出てきたご婦人に、通じないかもしれない英語でまくし立てた。

「あそこの村からこの犬が私にずっとついてきてしまったから、なんとか犬を家に返してやってほしい。私は行かなければならないから、犬はここに置いていく。よろしくお願いします。さようなら。」

ご婦人は困った顔をしていたが、振り返ってもしょうがない。

ぼくは、急ぎ足で、国道を目的地へ向かって歩き始めた。

・・・・・

という話だ。

陽向は一度も笑わないで、「どうして別れなきゃいけなかったの?」と悲しそうな顔をしている。

ぼくはいつものように、陽向が笑ってくれるだろうと思って話したのだが・・・。

そういえば、ぼくはその小犬の気持ちを考えたことがあっただろうか?自分は冷たい人間なんじゃないだろうか?などと、考え込んでしまうことになった。


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