東京芸大の修了展示を終えたTくんが、作品について説明してくれた。
作品は、透明の鎧である。そして、透明の鎧にたどり着くためには、真っ暗闇の狭い通路を、手探りで歩き、数枚の薄いカーテンを越えなければならない。しかも、鎧がぼんやりと見えてきたところで、透明の壁にぶち当たり、それ以上先へは進めない。透明の鎧にたどり着くことはできないのである。
作品全体は、彼自身と彼以外の者との境界を表している。
いろいろと面白い作品だが、一番面白かったのは、そもそも彼が他者との間に境界を設置するということ自体に疑問を感じておらず、そのことが前提となっていることである。
鎧は、「なければならないもの」として提示されている。
ぼくはといえば、鎧をどのようにしたら捨てられるかを問題としてきたような気がする。つまり、鎧があることに潜在的罪悪感を抱いているのだろう。
彼は、自分とは非分化な、彼にイメージを提示してくる「生物」へ居心地のよい場所を提供したい、と思っているそうだ。そして、鑑賞者には見えないところに、その「生物」との境界も設置したらしい。
彼は、社会はそのような境界に敏感になるべきだと主張する。
時代はそのように変遷しているんだね。