gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 少年と自転車

2011年。ベルギー。

少年は父親に捨てられ、孤児院に入れられる。だが、少年は捨てられたことを認めない。父親をひたすら信じようとする。

それは少年の生きる意味に関わる大問題なのだが、父親はそんな想像力はかけらも持っていない。本当に捨てられたのなら、自分は生きることを誰にも望まれていない存在になってしまう。

偶然出会った美容師の女が、少年を里子として育て始めるが、不良少年に誘われて、少年は強盗を犯してしまう。

その夜、少年がどうして美容師の女のもとへ戻る決意をしたのか?それがこの映画のキーではないか。それは女が夜中に外出しようとする少年を引き止めるために争う中で、少年が女の腕を刃物で刺してしまったからだと思う。

理由もなく傷つけられてきた少年は、理由もなく傷つけることによる相手の痛みを自分の痛みのように感じる。もし、そんなアクシデントがなかったら、少年は堕ちていく自分を止めることができなかったかもしれない。

少年が更生しようとしているとき、強盗の被害者から仕返しを受け、少年は意識を失う。被害者は、少年が死んだのではないか、と慌てるが、やがて意識を取り戻した少年は、何事もなかったかのように自転車に乗り、美容師の女のもとへ帰っていく。このシーンで映画は終わる。

少年は怒ることすらしない。ネガティブな感情に囚われる隙間がないくらいに、微妙なバランスを保ちつつ、平和に生きていくことにのみ心を集中しようとする。それは哀しい瞳を持った者だけが持つ生きる強さだ。

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