ぼくは都会を一人で歩くことが多い。
歩道を歩いていると、複数で歩いている人たちとすれ違う。
どちらかがよけなければならないとすると、十中八九ぼくの方がよけることになる。
別に不服に思うわけではないけれど、なぜいつもぼくの方なのか、と考えることがある。
今日ふと答えに至った。それは、ぼくがひとりで歩いているからだ。
一人で歩いているとき、ぼくらは歩道のどこを歩いてもよい。今ここのスペースを占有していることに積極的な理由は何もないのだ。
だが、複数で歩いているとき、その人が今そこのスペースを占有していることには、理由があるのだ。いっしょに歩いている相手のとなりのスペースを占有しなければならないという理由が。
相手がそこのスペースを占めることに特に理由はないのだが、相手も同じように、一緒に歩いているその人のとなりのスペースを占有しなければならないという理由がある。
だから、理由のないぼくがよけるのだ。
それを存在理由とよぶにはあまりにも重いかもしれない。だけど、きっと似たようなものだ。