ボスニア紛争の終結から12年経過したサラエボ。母と娘の2人家族を描いている。
母はセルビア兵による民族浄化と称する集団レイプを数カ月も受け続けた結果、妊娠した子供を堕胎できずに、紛争終結とともに娘が生まれてきた。
母は生まれてきた娘を拒絶しようとしたが、初めて娘を見たときに「こんなに美しいものを見たことがない」という思いに駆られ、今日まで育ててきた。
だが、母の戦争で受けた心の傷は深く、過去を想起させる何かに触れると突然娘にあたったりしてしまう。
加えて、娘の修学旅行の費用を負担することもままならない家庭の経済事情。母はなんとか娘を旅行に行かせようと夜のパブで必死に働く。・・・
生きるということはなんと過酷なことなのだろう。ただ生きるだけで、なぜこんなに大変な思いをしなければならないのだろう?
このような疑問の答えに戦争を持ってくるのは簡単だ。しかし、この映画が凄いのは、もっと広く、戦争体験のない私たちにも直接的に、私たちの生活の中にこの問いを生じさせる力を持っていることだろう。
この生は生きるに値するか?そこまで自身に答えを迫ってくるように感じた。激しい映画ではない。じわじわと沁み入るように。
希望はある。しかし、これからも母子の人生は厳しいだろう。闘い続けなければならないだろう。
そして、それ故に、これからも美しいだろう。他人事ではない。せめて私たちはそのように生きなければならない。