1990年だったろうか。南アフリカ・反アパルトヘイト運動の象徴的存在、ネルソン・マンデラ氏が来日したとき、東京で記念コンサートが開かれ、いろいろなミュージシャンが入れ替わって演奏をした。
そのような問題に詳しくはなかったが、関心の高い友人に誘われて場違いながら私もその場にいた。20年近い時間が過ぎたが、そのときの演奏で唯一憶えているのは、忌野清志郎の「からすの赤ちゃん」である。ギター一本で現れた彼は実にシンプルに、迫力のある声で歌った。
http://music.biglobe.ne.jp/lyrics/54/BL034954.html
その歌にどのようなメッセージがあったのか、それともなかったのか、私にはわからない。が、深く私の心に響いた。
かなわぬ願い、生まれ持った運命、それを赤ちゃんが嘆く。そんな哀しい歌ともとれるが、それ以上に、その哀しさを大声で歌ってどこかへ放り投げてしまう生きるものの強さ、のようなものを感じて、私の中で、遠くから見ると温和な紳士にしか見えないマンデラ氏の人物像と重なったのが印象的だった。
私が忌野清志郎の歌を真剣に聴いたのは、後にも先にもこのときだけだ。しかし、彼の人生に深い敬意を示したい気持ちを禁じえない。