中国へ自転車を持ち込み、内モンゴルの草原を800キロ走ったことがある。
360度地平線、という世界を爽快に走ったが、途中でアスファルトの道は途絶え、いつか道すらなくなってしまった。まあ、すべてが道といえば、そうなんだけれど。
夕方に運よくパオ(遊牧民のテント)を見つけると、訪ねて行って泊めてもらった。まずは歓迎のしるしとして、どんぶりに酒をなみなみとつがれる。飲み干すと、疲れた体にはてきめんで、ばったりと倒れ、数時間寝る。
起き上がると夕闇せまる草原で男たちはモンゴル相撲をやっている。柔道少年の私は混ぜてもらって、何人かの相手をころころ転がす。男たちの中で一番強い人が出てくる。取っ組み合うがいつまでも決着がつかない。女たちもやってきて、みんな楽しそうに周りを囲んでいる。
彼らはこんなふうに何百年も何千年も過ごしてきたのだろう。
中国領内なので、何人かは筆談ができる。どの国に行っても、最初の質問は「どこの国から来たのか?」だけれど、彼らだけはその質問を最後までだれもしなかった。
遠くから来た客人。おそらく彼らにはそれで十分なのだ。ひょっとしたら、自分たちが中国という国に属していることすらも彼らは知らないのかもしれない。人と人を区別するには、彼らの生きる場所はきっと平坦すぎるのだ。
彼らのように生きたい。そのときから、彼らは私のひとつの目標になった。