地平線に360度囲まれた草原。その中心で太陽の方向を見ながら、ひたすら自転車を漕ぐ。東へ。東へ。2日後には町にたどり着くだろう。
東の地平線の一点に、黒い点が現れる。点が少しずつ大きくなってくる。なんだろう?
ドドドドドドドド・・・、大地の声が聴こえ始める。
少しずつ、黒のかたちが見えてくる。羊だ。無数の羊だ。それを導く馬に乗った数人のモンゴル人たち。
私の進路の右前方から左後方へ大集団は駆け抜けていく。モンゴル人たちは、私には一瞥もくれずに、羊たちに神経を集中している。
ドドドドドドドド・・・。世界は大地の声に満ちる。
モンゴルの馬は、小さく、サラブレッドのように跳ねることがない。スルスルと滑るように水平移動する。
もう何千年もそうしてきたかのように、大集団は私の目の前を駆け抜け、そして、西の地平線へ消え去った。
まるで夢でも見ていたかのように、草原には、かすかな風の音だけが残された。