安冨歩の「マイケル・ジャクソンの思想」に、マイケルは「jam」しよう、と世界に呼びかけていることを書いている。
それは、スムーズに世界が動くために、人間の心が犠牲にされていることに気づかないふりをするのをよそう、という呼びかけだ。
この呼びかけは、それを言葉でどのように分かりやすく説明したとしても、「スムーズに世界を動かすことが一番大事なのだ」と信じている大多数の人々からは、拒絶され、批判される運命にあるだろう。
安冨歩は次のように書く。
「真の意味での『エンターティナー』とは、メッセージの隠蔽工作を実現できる人である」
隠蔽工作とはつまり、メッセージがあたかも全く別のものに見えるような工作である。
「マイケルはそれをこの上なく魅力的な音楽に乗せ、奇抜な衣装とセクシーでエロチックなダンスとともに届けたのである。」
「意識レベルでの受け取り拒否の機構をすり抜けて、メッセージを潜在意識のレベルへ届けることが可能になる。人間の行動は意識によっては変革しえない。意識でできることは、正しいフリをすることだけである。」
ものづくりをする人間の究極の目標は、この自らから発信されるメッセージを世界に届けることにある。
全てのアートは、この隠蔽工作のことだといってもいいだろう。
ぼくらにとって、とりかえのきく世界ととりかえのきかない世界との間に橋を架けることがつくることの意味であるとすれば、それを本当に伝えるにはビジネスの箱としての空間の方がよい、と考えるのも、受け取り手に油断をさせて、潜在意識のレベルへこのメッセージを届けるためだ。