友人は旅行先で地震が起きたとき、ちょうど温泉に入っていた。
建物が潰れるかもしれない、と思ったが、彼がまず心配したのは、ここで死んだら裸で発見されることだったそうだ。
だから、そこから逃げるより、まずは服を着る選択をした。
裸で外へ飛び出すくらいなら、死んだほうがましだ、と。
地震はほどなくおさまって事なきを得たが、これを聞いて、人間はつくづく社会的な動物だと思った。
この判断は正しいか、どうか?
それは、自分の命を、他人の命に置き換えてみると明白になる。例えば、自分の小さな子供と温泉に入っていたとしたら、服を着る選択肢などなくなるだろう。
年を負うごとに、知らぬ間に、変な自意識からは少しずつ解放されてきたかもしれない。
だが、咄嗟に起こることに対して、最適な判断ができないかもしれない、という怖れを感じることがある。
命が大切だ。裸で飛び出せ。
肝に命じる必要があるかもしれない。