gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

コンペ形式に対する疑問

空間の提案を複数の設計会社に依頼するクライアントがいる。そして、それを、コンペ形式と呼ぶ人がいる。

しかし、コンペとは普通、その業界の実力者が審査員となり、結果が公開され、1等になることは、名誉につながるような場合に使われる言葉である。賞金も用意されることが多い。真剣勝負ではあるが、華やかなイメージがある。

残念ながら、設計の業界では、予算の少ない、ごく小さな物件に至るまで、すべてをコンペ形式にしてしまってもよい、と思っている人々がいる。

例えば、あるクライアントが3社に提案を依頼したとする。それぞれの会社が1週間をかけて提案資料を作成したとすれば、3週間分の労働力がこのプロジェクトに使われたことになる。

そのうちの1社を選ぶわけだから、報われたのは1週間分の労働力で、2週間分の労働力は全くお金を産まないで消えることになる。

ひどい場合は、5社以上に依頼するクライアントもいるらしい。どれだけの労働力が無駄に消えてしまっていることか。

設計業界はもはや成り立たない業界になっているらしい。会社の数もどんどん減っている。この構造不況の背景には、コンペ形式の日常化を許した業界自体に第一の責任があるが、コンペ形式で依頼するクライアント側にも倫理的問題があるだろう。

しかし、一番重要なことは、コンペ形式によっては、よい空間を得ることはできない、という事実が、見失われている、ということだ。

設計は、クライアントの立場に立つことから始まる。設計者のクライアントへの信頼感なくしてよい空間ができることなどありえない。よい設計や、よい制作を支えるのは、結局のところ、心意気である。

コンペ形式と称するアイディア集めに、私たちグリッドフレームが乗っかることはない。私たちは、私たちを指名してくださるクライアントにのみ、私たちの創造力を捧げて、世界にひとつしかない空間をつくる。