無医村に招かれた医者は、実はニセ医者だった。
そして、そのニセ医者は、決して、いわゆる心のきれいな人間ではなかった。
しかし、彼は、次から次に来る患者に対応する中で、診療にのめり込む。
そうしているうちに3年半が経ち、彼は村の誰からも慕われるようになった。
だが、彼は常に不安な日々を過ごしていた。命にかかわるような怪我や病気が次々に彼のもとへやってくる。本で調べながらの対応では、あまりにも心もとない。そして、その事実を知っているのは、彼だけであるという孤独。
胃を患う老女との出会い。彼女との友情。なんとか対処しようとするが、癌であることが判明。彼は追いつめられていく。
ある日、彼は突然、村から姿を消す。
患者と向き合って、「助けたい」という気持ちと、「幸せに死なせてあげたい」という気持ち。その責任を一手に引き受けたい気持ちと、自分の実力のなさを不安に思う気持ち。押しつぶされそうな彼の心の動きが切ない。
自分では愛のない人間だと思っていても、突然目の前に倒れる人がいれば条件反射的に手を差し伸べてしまう。そのぎりぎりのところに表出する愛に、ひとすじの光を見る気持ちになった。
西川美和監督は、前作の「ゆれる」でもそうだったが、ラストの一瞬によって、すべてを包みこむ。
そこには愛があった。