ぼくの時間が突然スローモーションになったのは、人生で2回あったように思う。
それは、2回とも同じ状況のときに起こった。
雪道で車を運転して、突然滑り始めて、蛇行しているときだ。
1回目は、学生の頃、京都の北山の山道を走っていた。助手席には、同じアパートの友人M君が乗っていた。彼は、滑っている間、大声で笑い続けていた。
2回目は、ニューヨーク州バッファローの隣町ロチェスターで。一人で製本工場に論文を持ち込むために走っているとき。
どちらも対向車はなくケガ一つしなかったが、慌ててブレーキでも踏んでしまっていたら、どうなっていたか分からない。
なぜか怖いという感情はなかった。ただ、へまをすれば死ぬ、という認識はあった。
そのような状況で、なぜか1秒が3秒くらいに感じられたのだ。
あれは何だったのだろう。
ぼくは、あれを思い出すと、なにか励まされるような気持ちになる。
まだ、こちら側へは来るな、という誰かの声が聞こえてくるようだ。