小学生の頃には、まだ駄菓子屋があった。
甘納豆の小さな袋に1等から7等くらいまで書いた紙が入っていて、それぞれの賞品をもらえる、という当りくじ付の商品があった。いちばん立派な賞品の1等は1個だけ、2等は2個、3等は5個、・・・となっていて、私は5等〜7等を当てることがほとんどだった。たまに3等など当たろうものなら、みんなに羨望の眼差しで見られて、得意げな気持ちになった。だから、誰も一度も当てたことのない、大きくて豪華な1等の賞品はまぶしくて遠い存在だった。
ある日、1年上のKさんが、そのくじを一度に全部買った。度肝を抜かれた。くじを一度に全部買うなんて、インチキな感じがした。けれど、1等の賞品が袋から取り出される瞬間を見れる、と思うとワクワクして、Kさんが一袋ずつ空けるのを見ていた。
・・・最後の一袋が開けられた。なんと、1等は最後まで出なかった。2等以下の賞品は全部なくなって、1等の賞品だけがぽつんと残った。Kさんは駄菓子屋のお婆さんに、何か汚い言葉をぶつけて、店を出た。2等以下の賞品は全部ゴミ箱に捨てられた。
ショックだった。1等は最後まで出ないものだ、と知ったことは、ひょっとしたら私を変えたくらいの大事件だったかもしれない。