gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 おくりびと

納棺師の所作の美しさが、この映画の最大の魅力だ。

「死」というとらえようのないことを、穢れとして文化的に制度化した日本において、納棺師の仕事は「けがらわしい」こととされ、社会は彼らを差別する。主人公は、友人にも、妻にも、納棺師を辞めるように勧められる。

だが、上述のシーンは美しい納棺の儀を観た後に描かれるから、誰もが「そんなことはない。こんなに立派な仕事はない。」と主人公に味方する仕掛けになっている。

「死」が美しいのは、死後、ほんの数日の間である。その美しさは、遺族に「再生」をもたらすパラドクシカルな力を秘めている。死後2週間経って死体を発見された老人は、耐え難い悪臭を放ち、ウジが湧いている。そのような状態になってしまえば、もはや「死」は「死」でしかない。

主人公も、自身の蒸発した父親の納棺の儀を行うことにより、自らの「再生」を果たす。

死後の短い時間は、生きている間の何十年よりも、ときに濃密である。