gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

Max Richiter

映画「メッセージ」の挿入曲On the nature of daylightについて、長谷川町蔵氏は次のように書いている。

 

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楽曲自体は、5つの弦楽器とミニムーグのみのシンプルな編成で、最初から最後まで同じフレーズが繰り返されるミニマル・ミュージック的なもの。だがそのフレーズ自体は簡潔ながら極めてエモーショナルだ。映像的には静謐なシーンが多い一方、主人公の内面が激しく揺れ動くタイプの映画の挿入曲にいかにも相応しいナンバーと言えるだろう。
 でも『メッセージ』においては、この曲と映画はもっと作品テーマの核となる部分で繋がっている。その何よりの証拠が<彼ら>の言語に時間の概念が無いこと。これを音楽化するとしたら始まりも終わりもないミニマル・ミュージック以外考えられないのだ。
 また楽曲のタイトルが、古代ギリシアの哲学者エピクロス宇宙論をローマの哲学者ティトゥスルクレティウス・カルスが詩の形式で解説した書「On The Nature of Daylight(『事物の本性について』)」から取られたことにも注目してほしい。
 エピクロスの思想は、自然現象に恐怖を感じることから人間を解き放とうとしたものだ。つまり徹底的な無神論であり死後の世界は完全否定されている。しかし同時にエピクロスは、死とは原子に還ることなので、そういう意味において生命は永遠だとも語っている。そんなテーマを孕んだ「On The Nature of Daylight」をバックに、ルイーズは幼くして死んだ娘の人生も永遠であり、価値があることを知るのだ。

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On the nature of daylightを聴いていると、「生きたい」という気持ちが強くなる。

 

それは、「死にたくない」という気持ちとは違う。

 

シンプルに、今日を生きることに意味がある、と思えるのだ。

 

ミニマル音楽は、時間が今という瞬間の連続であることを、潜在的に知らしめてくれるが、その繰り返されるフレーズによっては、これを聴き続けること以上の苦痛はない、という絶望に陥ることもある。

 

そして、同時に、静かな気持ちにさせてくれるのもミニマル音楽だ。

 

ミニマル音楽が、ものごとに向かう態度を、姿勢を正してくれる。

 

起承転結のある音楽では、この姿勢を持続できない。

 

ぼくは、現在、空間をつくることを考えながら、この曲を聴き続けている。

 

無音か、この曲か、どちらかだ。