gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

中国の満員列車に乗る その1

内モンゴルの草原を800キロ自転車で移動した後、赤峰(ツーファン)で自転車を公安に没収された私は、赤峰から北京まで列車で移動した。

切符を買う長い列にならんで、ようやく自分の番が回ってきたかと思うと、言葉が通じないところで「メイヨ」という窓口の女性のいらだたしげな声で、切符を売ってもらえず、次の人の番になってしまう。中国では、切符を買うときには、これくらいのひどい仕打ちは覚悟しておかねばならないことをそれまでの20日間で学んでいた私は、すぐさままた長い列の一番後ろにならんだ。

「メイヨ」とは、没有で、「ないよ」という意味だ。日本人旅行者の間では、最も有名な中国語といっていい。いろんな窓口で、「メイヨ」の一言で、売ってもらえなかったり、聞いてもらえなかったり、会話が強制的にシャットアウトされる。日本人にとっては、理不尽以外のなにものでもないが、そのようなものに出会うことも私がそこにいる理由のひとつだった。

2回目のトライで、切符をゲット。記憶では、そこでもう半日は費やされた気がする。中国の旅は、それくらいの時間感覚でなければ、とても続けることができない。それから次の朝の列車を待つため、駅の硬いベンチで寝る。たくさんの中国人家族がやはり駅で夜を明かす。外国人は私一人である。

どこへ行っても、駅は人で溢れかえっていた。見上げると、天井ははるか上方にある。毛沢東の理念である、美しい農村の生活が描かれた壁画が、これもはるか上の方から見下ろしている。

ベンチからあぶれた者は、コンクリートの地べたで寝ている。そんな貧しい風景は、壁画に描かれているような風景とはなんの関係も見い出せない。私が中国人だったら、この壁画を憎んだだろう。(自転車を没収された後で、私自身、殺伐とした気持ちになっていたせいもあったろうが・・・)

しかし、中国人たちは、そんなことは意に介さず、ただそれぞれの人生を生きているふうだった。

(つづく)