gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

中国の満員電車に乗る その2

翌朝、列車が来るとなだれ込むように大勢が乗り込む。重い荷物を持った私は、やっとの思いで列車の中へ入れた。もし、自転車がまだ手元にあったら、乗り込むことは不可能だったかもしれない。

車内は、向かい合わせの席がならぶ。満員の車内で、座っているのは若い男たちがほとんどで、お年寄りはみんな立っている。強い者が席に座る。文革の間、儒教が否定された。その影響だろうか。お年寄りを大切にする文化が見られない。

やっと乗り込んだ私は、自分の荷物の上に座って、そんな様子を眺めていた。

席に座った若者たちは、食い終わった弁当のゴミや飲み干した空き瓶を次々と窓から放り投げる。列車に乗るときのイベントのひとつなのだろう。みな、楽しそうに放り投げる。

私たちが生まれつきに備えていると思っている基本的な道徳観は、後天的に教育で得たものだと認めざるを得ない。

今でも忘れないのは、目の前に立つ80歳くらいのおばあさんが、北京までの15時間、ずっと立ったままだったことである。その間、おばあさんは少しも表情を変えなかった。淡々とした様子であった。これが日常だということだろう。

ひどい話であると同時に、これは驚きに値する出来事だった。中国のお年寄りはこんなにも強いのである。

時代の波に翻弄されてきた世代。嘆いてもどうにもならないことをたくさん経験して来られたのだと思う。顔に刻まれた深い皺の奥に、80歳になってもまだ、いかなることも受けて立つことができる人間の構えを感じられた。

中国は底知れない国である。