陽向は言葉を話すのが苦手だ。話したい気持ちは強いのだが、内容を正確に伝えられない。
母親が彼が少し前にやったことを報告させる。正しい日本語に直して、時間をかけて繰り返させる。
ようやくそれができたとき、母親が褒めると、かれはなぜか憤慨し、不機嫌になった。
ぼくはその理由が分からなかったが、母親はすぐに気づいた。
彼にとって、発語したその内容にリアリティがなかったのだ、と。
彼の生きている実感。実存。
彼はそれをつかみたいという気持ちが強いのだ。
話す技術を憶える前に。
ぼくの中学時代も、そうだったことを思い出した。