1994年だったろうか?ヨーロッパは記録的猛暑と言われる中、オランダ・アムステルダムから出発して200キロほど歩いたことがある。
ぼくは地図を持たないで歩いた。地球上でどこを歩いているかわからない、という状況を体験してみたいと思ったからだ。つまり、迷子になってみたかったのだ。
だが、歩く道は平坦で、複雑に交差する道ではなかったし、見たくなくても標識は目に入ってくるなど、迷子になるのは決して簡単ではない。
計算を拒否しようとしても、ぼくらは自分の居場所を算出してしまうのだ。
迷子になることによって、先へ進むために、太陽の動きを見たり、星を読んだり、周囲の自然などを観察したり、さまざまなやるべきことが生まれるだろう。
ぼくらは、便利な世の中に慣れてしまって、先人たちが本来持っていたさまざまな能力を失っているかもしれない。
そして、便利な世の中が進むことが、こんな旅をつまらないものにしていることにぼくらはちょっとくらい抗った方がいいと思う。