gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

空間アーティストと住宅リノベーション

父親が亡くなってから、10年が経とうとしている。1956年に大企業に入社して、高度経済成長、オイルショック、バブル、そして、その崩壊の激動期を会社員として駆け抜けた父は、退職後すぐ陶芸を始めた。陶芸にかける情熱の高さは遠くに住んでいるぼくにも伝わってきた。

 

父は器用な人だったが、作品に洗練は感じられない。しかし、父がつくるどの器も温かかった。それは、父にしか出せない温かさだった。もちろん、それを「ここがこうだから」とか説明なんかできない。

 

父はもし違う時代に生まれたら、ぼくのようなものづくりの仕事をしたかったのだと思う。交通事故で亡くなった最後の日は、会社のOB会があって、東京でものづくりを仕事にしているぼくの話を嬉しそうに語っていた、と聞いた。事故はその帰りに起こった。

 

この時代だって、ものづくりの仕事を続けていくのは楽じゃない。もし、父が30年若くなって他人として存在したとしたら、そして、ぼくと出会って「一緒に会社をやろう」ということになったら、一緒に徹夜して、喜んだり悲しんだり、ケンカしたり肩を叩きあったりして、ときどきこれからの夢を語り合っただろうな、と思う。

 

ぼくらが自分たちのことを「空間アーティスト」と呼び続けてきたのは、皆が優秀な職人であるよりは、向こう見ずな旅人でありたいと思うからだ。

 

そして、亡くなった父も向こう見ずな旅人でいたい人だった。

 

今年からぼくらの仕事として、住宅リノベーションを主軸に据えた。父のように、「つくりたい」というエネルギーを秘めた人々の家をぜひつくらせていただきたい。もちろん、「つくりたい」はものづくりに限らない。

 

資本主義が推し進めてきた誰にも均等な快適・簡単・便利住宅を、依頼主にしか出せない空気をぼくらにしかやれないやり方で醸し出す住宅に変えていきたい。そして、そんなつくり方をする小さな空間アーティスト集団が次々に生まれていけばよいと思う。

 

そんなふうに変わっていくならば、この国はどんどん愉しくなっていくんじゃないだろうか?