gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

時を生む住居 6

リノベーションは解体から始まる。いいかえれば、固まったものが解かれて散っていく「ほどろ」から始まる。

2019年から住宅のリノベーションを始めた。KZ邸のリノベーションではカタログ建材でつくられた壁が取り払われて、下地のコンクリートや鉄筋があらわになった瞬間を見て、依頼主が笑顔でこう仰った。「すでに、いい感じになっていますね。」依頼主は、時間が生まれたのを感受されたのだと思う。


ぼくも笑って応えた。「ええ、壊れるほど、良くなりますね」


一般に行われているリノベーションでは、あらわになった下地の材料を、また新たな建材で覆い隠して、生まれた時間を消滅させて凝固したものが完成して工事を終える。


ぼくらはそうしない。解かれて動き始めた糸の自由な戯れに任せて、その動きに寄り添いながら、新しい何かをつくっていく。つくりながら考える。これが「創造性の連鎖」である。もちろん、あらわになった下地がそのまま残ることも多い。依頼主に空間を引き渡した後も、生まれた時間は消えることなく、そこで生き続ける。


また、ぼくらは新しくつくる空間に既に長い時間を過ごしたものを空間づくりの素材として取り入れていく活動SOTOCHIKUを進めている。


さまざまな時間を過ごした素材が一つの空間に集結し、互いに複雑に呼応し合うことにより、人間が「時間という定規の、等間隔に刻まれた目盛りの一点に産み落とされた」という認識を壊したいと思っている。


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