陽向が小学校のダンス部として港区のイベントのステージで踊るのを見に行った。
その後、パントマイマーが風船アートづくりを子供たちの前で披露して、つくったものを子供たちにプレゼントする、というのがあって、陽向も楽しそうに輪に加わっていた。
大勢の中では、かなり控えめな方で、「欲しい人!」と言われると、輪の後ろの方で手を上げる。それではなかなかもらえない。
しかし、思わぬチャンスが巡ってきたのは、風船アートでアンパンマンがつくられたときだ。アンパンマンは小学生にはもっと「ちっちゃい子が好きなもの」の象徴的存在で、少しマセた子は「アンパンマンか、いーらねえ!」と言ったりする。
誰かがそういうと、手を上げたがらないのが集団の心理だが、そんなことは気にしない陽向は勢いよく手を上げて、難なくゲット。
満面の笑顔で、ぼくらの方へ駆け寄ってきたが、ちょっとだけ気になったのか「誰も手を上げなかった?」と聞いてくる。
「そんなことないよ。何人も上げてたよ。」いつもは20人くらいが上げているけれど、今回は3、4人だった。でも、嘘じゃない。
よかった。本人は満足げだ。
大人になるにつれて、他人の欲しいものを欲しがるようになる。人間のちょっと残念なところだ。
陽向は、できるだけ人の目から自由であってほしい。
空気を読むのは、そこそこでいい。