ほとんど設備だけのラーメン屋さんとか、デザインがなくても流行っているお店はたくさんある。そこには、空間を楽しむことなどは余計なことで、ただラーメンの味と向かい合うことが大切なのである。（私はそういうお店を結構好きだったりする。）
元々、おしゃれな店というもの自体、数十年前にはほとんどなかったのだから、店舗内装の歴史はごく短いものである。
では、おしゃれなお店や面白いお店が誕生してから、人々は以前より豊かになったのだろうか。
もちろん、それぞれのお店にたくさんの人を呼べるように、私たちは店舗をデザインする。しかし、その向こうで、人々の無意識の中にインプットされ、願わくば、その人たちの心を豊かにしたい。
私が、子供の頃を回想するとき、浮かんでくる幸せな空間は、店舗空間ではない。家族旅行の思い出だったり、柔道大会の思い出だったりする。
それらの思い出が、今の私に安らぎを与えるように、私が関わった店舗空間が誰かの力になれたとしたら、これ以上の幸せはない。
そこに人の一生懸命があること。誠実さがあること。どんなにスカした空間でも、本当に大事なことはそれがお客に伝わることである。
それが伝わらないような空間であれば、デザインのないお店の方が１００倍よい。
