gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

映画 カッコーの巣の上で

この映画は、20年以上前に一度観たことがあり、骨格を憶えていた。そのため今回は、精神病院の中でジャック・ニコルソン演じるマクマーフィーが騒動を起こすたびに、体制側の報復を過小評価している彼を悲しい目で見つめることになった。

それにしても、マクマーフィーの放つエネルギーの、なんと快活で美しいことか。自由とはなにものも恐れないことだと、脚本ではなく、演技で教えてくれる。

その自由は体制側の暴力によって完膚なきまでに潰される。狂っているのは患者たちではなく病院の体制そのものである。映画を観る者は、その構造を自分たちが属する社会に置き換えるだろう。

そうであれば、もし、マクマーフィーが脱走に成功したとしても、病院の外に何が待っているというのか。外にもまた同じ構造が待っているだけに過ぎない。恐れを知らぬ者は、どの世界へ行っても「危険人物」なのだ。

だが、最後にたった一人脱走するチーフの人格は違う。彼は恐れを知っている。だからこそ、彼は身を隠し、自分という人間にじっと耐えることができるのだ。

20年以上前に観たときのラストシーン、走り去るチーフの後姿が脳裏に焼きついていた。それは希望を表している。だが、その希望とは「自由」ではない。

チーフは霧の中へ消えていく。