けしきとは
景色 または 気色
日本のものつくりでは
わずかな
ほつれ、ゆがみ、しみ、きずなど
完全でないものに揺らぎを見出し
けしきと呼んで美の中へ取り込む
川は流れ
時をさかのぼる
ものつくりの場所から
解かれて流れ始める時間の川に
染められた帯を洗う
川岸の草露は
自分の重さに身を任せ
流れ落ちて
さまざまな色を成す
さらに時をさかのぼり
絹の源泉である繭玉に至る
蚕はその命と引き換えにつくった白い世界を
一すじの糸も切ることなく
大事になめて溶かして
小さな穴を開けて外へ羽ばたく
思えば その始まりからずっと
大事に大事につくられてきたものだったのだ
蚕の姿を心に描いた瞬間に
川は未来へと流れ始める