読書歴を大まかに振り返る。
ぼくは日本で大学を出るまではあまり読むことが好きではなかった。
いや、読むことは好きだったが、読むスピードが極端に遅いため、思想書なら数か月は読み続けることを覚悟しなければならない。
読まねばならないだろう本の数を思うと、気が遠くなった。
根本には、人生のレールに乗っかっていかねばならない、という暗黙のプレッシャーがあったのだろう。
ぼくが本当に本に向き合えるようになったのは、ゼネコンへ就職後にアメリカへ建築を学びに留学させていただいた後になる。26歳になっていた。
アメリカへ行く前に、金大偉さんというアーティストに出会って、現代思想入門の紹介をしてもらった。
そこから、現代思想に入り込んだ。柄谷行人を最初に読んだ印象は、「会ったら嫌な人だろうな」というものだったが、たぶんだからこそのめり込んでいった。
柄谷が一時期強く推していたという森敦の「意味の変容」に出会ったのもこの頃だ。
以来、「意味の変容」はもう確実に100回以上読んでいる。今日も読んだ。
これ以上、ぼくが親しくした本は今後もないだろう。
その後、帰国し、グリッドフレームを興した後も、柄谷行人と森敦を読み続けた。
そんな中で構造的、空間的な思考が身についたと思う。同時に、この世代の著者の文体の美しさに惹かれた。
一方で、他の著者に興味が持てずに、その世界から外へ出ることができなかった。
しかし、近年、SOTOCHIKUの動きを実践する中で、そして実践のためには政治に興味を持つことが不可欠であるのを感じる中で、さらには、空間とは別世界で本質的な動きをしている人とつながることを模索する中で、読書の幅が広がってきた。
現在は、安富歩や藤原辰史に惹かれている。