gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

己の欲せざるところ

安冨歩氏が、論語の講義の中で「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」について解説している。

 

これは、確か中学生のときに、「自分がされたくないことを、人にしてはいけない」という分かりやすい意味で習ったと思う。

 

安冨歩氏はこれは間違っていて、もっと厳しい意味を表している、という。それは、こういう意味だ。

 

「自分がしたくないことを、人にしてはいけない」と。

 

この方が厳しいかどうかは、よく考えてみないとピンとこない自分がいる。

 

命令されても、したくないことはやってはいけない。

 

自分が受動的立場ではなく、能動的立場であるとときに発動する自己に対する命令。

 

例えば、「殺す」ということについて、

「殺されたくなければ、人を殺してはいけない」よりも、

「殺したくなければ、人を殺してはいけない」の方が、直接的であるのがわかる。

 

前者は、殺される自分を想像することから始まる。後者は、そのような想像を寄せ付ける余裕がない。

 

前者は、自己犠牲的な人であれば「自分が殺されてもいいから、人を殺すことも許される」ということがありうる。

 

だが、後者は今まさに、目の前の人たちを「殺せ」という命令が上から下されたときを想像できる。自分が「殺したくない」と思えば、誰からの命令だろうとその人たちを殺してはいけないのだ。殺さないことによって、自分が殺されても。

 

立場主義を徹底的に批判する安冨氏ならではの論語の解釈である。

 

「殺されたくなければ、人を殺してはいけない」では、戦争はなくならないのかもしれない。