早朝、妻とジョギングに出かける。
陽向は、いつも熟睡している。もし、目が覚めたとしても、もう泣くことはなくなった。
きっと、youtubeでも見ながら帰りを待っているだろう。
20分後、ぼくが先に帰り着くと、陽向がいない。鍵は開けっ放しだ。
びっくりして、マンションの中を探し回る。友人宅も、申し訳ないけれど、呼び鈴を押して陽向が来ていないか聞いてみる。
マンションの中の心当たりには、どこにもいない。
外を探すことにする。
靴がなくなっているから、靴を履いて鍵を開けて、自ら出ていったようだ。
ぼくらを探して?
ジョギングのコースを彼は知らないから、そうではないだろう。
とりあえず、マンションの周辺を探したが、やはり、どこにもいない。
そのとき、家で待機している妻から電話。「ランドセルがないから、学校に行っているみたい。」
これまで、2km先の学校まで一人で行くことはなかったから、思いもしなかった。
それに、まだ学校に行く時間ではない。
自転車で、彼を追いかける。
学校までの道にも彼の姿は見当たらない。
学校の門を入ると、下駄箱の手前で、早く来た女の子たちと談笑している彼が遠くに見える。
緊張がするりと解けた。
「おまえ、心配したんだぞ!」
陽向に近づくと、「あれ、どうしたの?」という顔でぼくを見る。
女の子たちが「陽向くんがいちばんだったよ」
陽向は得意そうだ。
「どうして、パパたちが帰るのを待たなかったの?」
「だって、寝坊したと思った」
走って来たらしい。
ちゃんと、服を着て、忘れ物もないようだ。
「おなかすいてるだろ?なんか食べようよ」
「いやだ」
一番に登校した座を明け渡したくないらしい。顔に表れている。
家でご飯を用意しても、食べない朝もあるから、ここは引き下がることにする。
「これから、こんなことしちゃだめだぞ」
と言って、その場を離れた。
朝からどっと疲れた。
でも、陽向は、なんて清々しい顔をしていたんだろう。
一人で起きて、学校へ行くなんて、想像もしなかった。
きっと、めそめそ泣いているんだろうと思っていた。
こうやって、子供は自らハードルを越えていく。
自転車の横を夏の風が吹き抜けていく。
その後、陽向は何も食べていないことを先生に言って、ちゃっかりおにぎりをいただいたらしい。
「あいつめ!」
・・・苦笑いしかない。