ケーキにまだバタークリームがのっかっていた頃、生クリームがのっかっているケーキを食べて、感動した。ぼくが小学生の頃だ。
ケーキとはやわらかいものだ、と思った。小さい頃から、ケーキはずっと好きだ。けれど、ケーキで感動したのは、たぶんそのとき1回きりだ。
私が子供の頃とくらべて、ケーキはずいぶんおいしくなった。それは分かる。最近、ケーキ屋さんにお話を伺う機会があったが、砂糖の量は、1970年代と比較して、10分の1になったそうだ。つまり、その分、日本人の舌がデリケートになったのだ。
去年食べたクリスマスケーキと、今年のクリスマスケーキは、別の場所で買った。去年の方が、雑味がなくやわらかいケーキだった。味を覚えている。しかし、今年のケーキよりもおいしかったとは思わない。どちらも文句なくおいしいのだ。
もう「まずい」といえるものを探すほうが難しいくらいの時代になった。
きっとぼくらは、よい時代を生きているのだろう。
しかし、あの頃の感動は、色褪せることがない。その感動を、取り戻すことができるか?それが現在のつくることすべてに当てはまる課題だと思う。