1991年。コーエン兄弟監督。
現実と幻想の境をゆらゆらと行き来するロサンジェルスのホテルの中。
古いホテルにはそのような薄気味悪さがある。その薄気味悪さは、ドアが等間隔にならぶ長い廊下に凝縮される。
一体、自分と同じ間取りの部屋にどんな人間がいるのか。しんと静まりかえった廊下は、想像力を駆り立てる。
書くことに行き詰ったもの書きが、怒涛のようにタイプライターを打ち始めるのは、殺人鬼の隣人が彼に預けていった、ちょうどナマ首が入るサイズの箱を目の前に置いた瞬間からである。
創造力は、倫理とは無関係なところで活力を得る。
主人公のもの書きは、殺人鬼にシンパシーすら感じている。
背筋が寒くなるが、誰にも否定はできないことだろう。
そして、そのようにして生まれた傑作は、ハリウッド映画の脚本としては単にゴミ扱いされるに過ぎない、というオチも秀逸だ。