2001年、コーエン兄弟監督。
主人公は無口な床屋。繰り返し流れるベートーベンのピアノソナタ「悲愴」が主役といってもよいかもしれない。
映画を観終わった後、いい演奏を聴いた後のような気持ちになった。
主人公は、脅迫状を出して金を手にし、正当防衛的に殺人を犯すが、最後はその罪とは全く関係ない罪をでっち上げられ、電気椅子に送られる。
だが、主人公はそのことを不幸だとは思っていない。世の中とはそのようなものだと思っている。
全編に亘って、ひしひしと伝わってくるのは、主人公の孤独である。
彼は常に淡々と、慌てもせずに、無口でそこにいる。まるでピアノソナタ「悲愴」のように。だから、周囲は彼の存在に気づかない。一体彼がどんな男であるのか、を誰も知らない。
それにしても、なぜベートーベンはこのゆったりとした美しい曲を「悲愴」と名付けたのだろう?