学生の頃に、この人の映画を撮りたい、という映画監督から画集を見せてもらった。生きているときには認められず、死後、評価された画家、田中一村。
不遇の人生の後半を、単身、奄美大島で過ごし、その自然を描いた。「描いていると、自然が語りかけてくるようだ。」と知人に語ったことがあるそうだ。
美しいストーリーである。
だが、画家をストーリーによって知ってしまうと、この画家の絵が好きなのか、ストーリーが好きなのか、分からなくなる。どちらでもよかったかもしれない。
同時に、そんないい加減さに嫌気がさしていた。
田中一村としては、こんな自分に知られて迷惑だったかもしれない。東京から福井まで、田中一村展を観に行った。
作品に何かを感じるか、感じないか、を語るのは不誠実なことかもしれない。どのようにでも書けるし、書けば、確かにそのように感じたのかもしれない、と思えてしまうからである。書くことはたぶん、でっちあげることにすぎない。
とにかく、まっすぐ正面から、何時間も絵を観続けたことを覚えている。