アメリカに留学中、日本の大学で同級生だった友人が奥さんと訪ねてくれた。奥さんが料理をしてくださるということで、スーパーマーケットへ買い物に行った。
アップルパイが山積みになったカートに、巨大な文字で「FREE!（タダ）」と書いたポップが付いている。私は友人へ向かって得意げに、「これ、タダなんだよ」と言うと、友人はポップに見入って、FREEの文字の１００分の１くらいのサイズの文字を読みあげる。「buy one, get one」
「buy one, get one FREE!」つまり、一つ買ったら、もう一つはタダ。
その瞬間、めまいがした。私は２年もの間、そのポップのついたカートは、タダで持ち帰ってもよい品物だと思っていたのだ。しかも、タダだったら、控え目にしよう、と、１個だけかごに入れていたから、これまで一度もタダの恩恵を被ることがなかったのである。また、レジで実はお金を払っていたことに気づかないくらい、お金に対して無頓着だった。
顔から火が出るくらいに恥ずかしかった。が、その頃の自分を象徴する出来事だったと思う。
現在は、良かれ悪しかれ、このようなことは絶対にない。遠い、夢の話をしているようだ。
