gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

選ばれないこと

小学5年生の頃、塚本道場という柔道の道場に通っていた。

当時、全国大会団体戦(小学生の部)5連覇中という有名な道場だった。

塚本先生は70歳を越えるおじいさんで、目がご不自由だったが、明治生まれの毅然とした方で、先生の存在を感じると、道場の空気はピリッとしまった。

団体戦は5人制で、道場の小学生の中で強い者から選ばれる。6年生が4人。5年生が2人。この中で、1人だけが大会に出られない、という状況の中で、毎日のように道場内でリーグ戦をしては、選手の座を争っていた。

私は、5番目か、6番目にいて、当落線上を綱渡りする毎日だった。布団で目が覚めると、もし、選ばれなかったらどうしよう、と、自分を支える地盤が崩壊して宙に放り出されるような気がして、ひとり泣いた。本気だった。当然、他のみんなもそうだったろう。

大会は、日本武道館で行われる。試合前日の宿舎で、選手が発表された。選ばれなかったのは、私だった。私は泣きたい気持ちになったが、それよりも前に、鬼のような大先生がぼろぼろに泣いた。70歳を越えた先生に、私の心がわかるのだ、と思った。

あるポジションをつかもうとして、あんなに必死になったことは、あれきり一度もない。だが、私が70歳を過ぎても、小学生と一緒になって突っ走るような人でありたい。