gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

意志 その6

周囲が雪に閉ざされているため、昼の行動範囲は極端に狭い。散歩といっても、景色が変わるわけではない。

凍りついた川へ下りてみて、ずっと上流へ向かって歩いてみたい衝動に駆られるが、気候がそれを許さない。きっと何時間歩いても、隣の村へはたどり着けないだろう。

蛇行している川の周辺特有の三日月湖がまわりにたくさんある。丸太小屋へよく遊びに来る子供、チャーリーのお父さんが、そこへビーバーを捕まえに行くということで、ついていく。

ビーバーは食料になり、毛皮になり、油をとり、捨てるところはどこもないそうだ。

その日は単純な罠を仕掛けて、次の日にひっかかっているかを見に行く。2〜3度ついていったが、罠には全く変化がなかった。少なくとも、ビーバーが減っていく心配はない。

別の日は、ジェイソンが薪木をつくるために林へ入って木を切り倒しに行くと言うのでついていった。日光の届かない林の中は寒い。高校生のジェイソンは身の周りの仕事を全てこなす。切り倒した木は、ほどほどの大きさに切り分けて、橇に乗せて、スノーモービルで引いて帰る。

スノーモービルは免許が必要なのかどうか知らないが、警察官もいそうにないこの町では問題になるはずもない。子供でも乗り回している。

ただ、私の知る限り、誰も酒を飲まなかった。外で寝てしまったら、死んでしまうからだろうか。人口が80人しかいない村の規則だろうか。

温かい場所を旅するとき、現地の人はよく笑った。なんでも笑って済ませた。だが、寒い場所ではそうはいかない。

・・・

その日、私はスノーモービルを借りて、チャーリーたちを乗せて、飲み水を汲みに行った。子供たちは、私を遊び友達と思ってくれていて、どこにでもついてきた。その場所は人里を少し離れたところにある。水を汲んで、帰ろうとすると、スノーモービルのエンジンがかからない。10〜20分、いろいろ試しながら、そこで立ち往生していた。

そのうち、チャーリーのお父さんがやってきた。すぐに帰ってこないので、心配してくれたようだ。コツがあるのか、彼がやってみるとエンジンはすぐにかかった。

にっこりして「ありがとう」と言うと、彼から無言の鋭い眼差しが帰ってきた。私は、彼のその目を一生忘れない。

寒い場所に生きる人は、自分で何でもできなければ、生きていけない。私は、そこにいる資格がない、ぬるい人間だということを思い知らされた。

(つづく)