gridframe001の日記

とりかえのきかない世界を生きるために

ピレネーの屋根裏部屋

スペインでの夏期講習が終わると、学生たちはそれぞれが行きたい場所へ散っていった。

私はとりあえずフランスへ向かった。やらねばならないことがあった。修士論文の第2章を仕上げること。だから、書くための場所を探した。

スペインとフランスの国境にはピレネー山脈が横たわっている。避暑地なので、書くにはよいかなあ、と思いつつ、ちょっと近すぎる気がして、一度は通り越して、リヨンまで出た。しかし、やはり街はうるさい、と思い直して、その日のうちにピレネー山脈へ戻ってきた。

それから1週間、屋根裏部屋を借りて文章を書き続けた。窓を開けると隣の瓦屋根。この瓦屋根とにらめっこしながら、いろんなことに想いを馳せた日々。

突然、夕立がやってきて、隣の屋根に当たった雨が部屋の中に飛び込んできて、原稿を濡らす。慌てて窓を閉じたときの、雨の匂い。

缶詰になった部屋の空間は、鮮明な記憶として今も残る。