陽向と一緒に、顔の写真を見ながら絵を描いている。
陽向は顔だからといって、特別に考えていない。手や他の静物を描くのと同じだ。
ぼくはどうしても似顔絵を描こうとしてしまう。似ているか似ていないかは、絵の価値としては関係ない、と思っているのに、似るように描いてしまう。
だが、このこだわりに必ずしも意味がないわけではない。
殊に、このシャイニングのジャック・ニコルソンについては。
描いてみてよく分かったが、この顔の醸し出す狂気を絵によって超えることはぼくにとってはほとんど不可能に思える。
狂気を表現できずに、鏡の前で自分でこの表情をまねてみたりもしたが、こんな顔はやすやすとつくれる類のものではないことを実感した。
むしろ三船敏郎やブルース・ウィリスに似ている顔を経て、何度も手を入れるうちにこの顔にたどり着いたけれど、それでも狂気は描き切れない。
口の下側の筋肉に力がこもっている。頬の筋肉が吊り上がっている。それでいて、顔全体は大きく崩れない。
ジャック・ニコルソンの凄さを思い知る結果となった。