19時半、イライラしている陽向を外へ連れ出し、人気のない場所で100m競走を10セット。もちろんぼくも全力疾走。
最初の3回は、陽向の圧倒的勝利。全然勝てない。うれしい敗北だ。この日を待っていた。
握手をして、トイレ休憩。トイレまでの数百メートルで、また陽向に異変が生じる。すれ違う人を威嚇するような大きな咳払いが連続する。
競争再開。4回目、5回目はぼくが勝利。「ほらね、雑念が出ると弱くなる」とぼくが言うと黙り込む。
6回目はまた陽向が勝利。集中力をもう一度上げてきた。
7回目、8回目はまたぼくの勝利。4勝4敗。陽向のスタミナが切れてきた。道に仰向けに寝そべる。小学生の頃からよくこうしていたのを思い出す。
9回目。同着引き分け。お互いに力を振り絞る。
10回目で今日の勝ち負けが決まる。賭けをする。
ぼくが勝ったら、陽向が二度と人前で威嚇するような咳払いをしないこと。
陽向が勝ったら、週末に千葉へ1泊旅行。
結局、彼にスタミナは残っていなかった。ぼくの勝ち。
お互い、道にへたり込んで握手。それから、彼は立ち上がり、「あと2回走る」と。
陽向だけで2セット。そして、清々しい顔で「帰ろう」。
帰ってからは、テーブルで静かに考える顔をしている。
「どうした?」と訊くと、「自分の弱さについて考えてます」と。
ぼくがまだ君とライバルでいられる間に、君が中2でよかった。
週末は千葉へ行こう。