陽向は1年半前に50キロを歩いたとき、25キロ地点まではいつものぼんやりした陽向だった。半分を過ぎて言ったのは、「もう飽きた。電車で帰ろう」
でも、そこから覚醒した。足がつらくなり、重くなるにつれて、何かが彼の中で生まれ始めた。
彼はぼくから遅れることなく歩き始めた。その後も、距離を増すにつれて顔が引き締まってきた。
歩き終えたときの彼の晴れ晴れとした表情は忘れられない。
心身の病を経て、先日、45キロ歩いたときは、彼は後半自分で走り始めた。その彼に、マラソンランナーの自分がついていけなかった。
いつも、半分を過ぎたところで彼は見たことのないエネルギーを発揮し始める。
追い詰められる、という経験の果てに、彼の内燃機関が燃焼を始めるのだ。
ぼくは、彼にその機会を与える役割を担っている。