「自分が咄嗟にやってしまったことに対する、後始末ができない」夢を見た。
出来心の意味を調べると「ついふらふらと起こった好ましくない、心の揺らぎ。」とある。
たぶん「好ましくない」とは、社会的な意味であり、本人がそのときに好ましくないと認識していれば、そもそも起こらないことも多いだろう。
ぼくが見た夢はこうだ。舞台は病院で、ぼくと妻がだれかの付き添いなのか、病院のスタッフさんとは顔見知りになっている。
「アルコール消毒液をまっすぐ立てずに斜めに保管すると質が悪くなる」とある若い看護婦さんが主張していて、ぼくら夫婦の前に手押しのワゴンを止めて、ぼくらに話している。
どうやら、妻が1本のアルコール消毒液を斜めにしてしまったことを疑われていて、それを看護婦さんが咎めるような口調で、真偽をただしている。
妻は「そんな覚えはない」と不満げで、ぼくは「いずれにせよ大した話ではない」と思っているが、斜めに保管すると中身が変質するとはどういうことかを考えている。
目の前には、アレルギー症状のある息子・陽向がいつも病院からもらってくる親指ほどの大きさのプラスチック容器に入った点眼液がワゴンの上に無造作に何個か載っている。
どれも斜めになっていて、ぼくの手は2個の点眼液に伸びて、左右の手に1個ずつサッとポケットの中に入れて、ポケットでできるだけ直立する状態にして保つ。傍から見たら、ただポケットに両手を入れているようにしか見えない。
看護婦さんは妻への話に夢中で、ぼくのやっていることには気づいていない。ぼくもなんとなくそうしているだけなので、自分のやっていることに対してもあいまいなくらいだ。
いつの間にか、婦長さんがやってきて、話に加わっている。妻と看護婦さんの話は終わったようで、妻はその場を離れた。
気がつくと婦長さんがぼくの目をジッと見つめている。ぼくは、「あっ、これですか」とポケットから両手を取り出して、2個の点眼液をワゴンの上に戻した。
若い看護婦は急に呆れ顔をして、ぼくに冷たい視線を投げてきた。
何か言わなきゃ・・・と思うが、説明ができない。このままだと看護婦さんたちは行ってしまう。
「あの・・・どうしてアルコールは斜めにすると変質するんですか?」という質問が咄嗟に出てきた。そうか・・・自分がどうしてこれをやったのか、そのときに初めて理解した。
若い看護婦さんは「いや・・・」と言った後、しばらく待っても答えが返ってこない。こんな人とは話したくない、といった雰囲気だ。
それでもぼくがしつこく「どうして斜めだったらダメなんですか?」と訊くと、「今、まだ論文を読んでいる途中で・・・」と言って不機嫌に立ち去ろうとした。
「点眼液も斜めになってたから・・・」と口早にぼくが言った瞬間、看護婦さんと婦長さんが「あっ・・・」と言った。
そこで目が覚めた。
「自分が咄嗟にやってしまったことに対する、後始末ができない」
ぼくは、婦長さんがぼくの行為に気づかなかったら、きっと「あの・・・これ、落ちてました」と窓口に返しに行っただろう。
説明のつかない行動は、悪意で始まることの方がむしろ少ないのではないか。むしろ、善意が始まりかもしれない。
子供の行動はもちろん、大人の行動だってそのようなことが多いに違いない。