いつも聴こえているのかもしれないが、めったに意識することはない。
地下鉄の通る音の話だ。
ぼくが住んでいるマンションの下には、さほど深くないところに千代田線が通っている。
4階の部屋から、その音を感じることが、年に数回ある。きっと地下鉄の音なんだろう、というくらいだ。
周囲が静まり返った時間に、地響きとして聴こえてくる。
地下の見えないものから発せられた振動に、部屋が包まれる。
広がる暗闇の中を、ぼんやりと光る蛇が通り過ぎる。
無数の蛇たちは互いに出会うこともなく、孤独に滑り続ける。
そんなイメージに包まれながら、深い眠りへと沈んでいく。