遺跡と呼ばれる場所へ行くと、いつも感じる不思議な感覚がある。
それはたぶん、「大切にすること」=「放置すること」という感覚だ。
それぞれの遺跡を守る関係者たちには、その遺跡を誇りに思っている人と単に仕事としてやっている人、どちらもいるだろうが、大まかに言えば、放置することが仕事なのだから結果は変わらない。
つまり、本人がどんな気持ちでやっていようが、他人にとやかく言われる筋合いはない。
それは、遺跡を訪れる人についても同じで、なにを感じようが、なにも感じまいが、他人にとやかく言われる筋合いはない。
「何かをすること」だけが禁じられる場所なのだ。
日頃、「何かをしなければならない」という強迫観念の中で生きている人には、ここは天国だ。
だが、遺跡という天国から、地上の生活を眺めてみると、地上の生活も本当は「何もしないほうがよい」ことで溢れているのが見えてくる。
むしろ、「何かをしなければならない」ことは限られている。
そのような認識で生きる人は、人生を愉しんでいる。