何かを書こうとして、内容について考えていると、ほんの数秒前に考えていたことを思い出せなくなることがある。
連続性を保つ限りで、文脈は新たにつくりだされる。それは、森の中の湧き水のようだが、一瞬他の考えがよぎったりすると、もう、森自体が忽然と消え去ってしまう。
そのようにして、たくさんの物語が生まれかかっては、かたちをなすこともなく、消滅しただろう。
消え去った森は、もうあまりにも多すぎて、今では諦めがよくなり、なんとか思い出そうともしない。
また、何かがきらめくのを待って、好きなことをするのみだ。
きらめいたものが見えたら、トンボを捕まえるように、そっと両手でつつみこむまで、少しでも気持ちを逸らしてはならない。息を潜めて、音を立てずに近づいていく。
光をとりまく、森がかすかに見えてくる。全体が見えているようでもあるし、断片しか見えていないようでもある。
また、途切れる。森が消える。
果たして、もう一度同じ森をまた見ることはできるのだろうか。